失敗例や知見を構造化して再発防止に活かすには?

失敗例や知見を構造化して再発防止に活かす

上述の事業案内「知見の構造化」では、ある概念を分類化する「分節化」という手法と、事象を「概念化(or一般化)」して一般概念として置き換える手法と、その様に構造化された知見情報を水平展開(気付きを与え 不具合を未然に防止する)する事の価値について説明しました。

その様にして事象の因果関係を構造化し、概念化を施して水平展開する事は、単なる問題解決を超え、組織全体での継続的改善を支える強力なフレームワークとなります。

このページでは、更に具体的な事例と通してその効果的な活用法について説明します。


1.分節化の有効性と重要性

「分節化」とは、複雑な現象や事象を要素ごとに分解し、それぞれを独立した構造として整理する手法です。
このアプローチは、特定の課題や不具合が どの様な要因やプロセスの影響を受けているかを順序立って明確にするのに非常に有効です。
特に以下の様な場面で分節化の価値が発揮されます。

分節化により、不具合や課題の構造を「部品」「機能」「プロセス」などに分けて捉える事で、複雑に絡み合った原因を段階的に、かつ相互関係を明らかにする事ができます。
これにより根本原因を特定し易くなり再発防止策を的確に講じる事ができます。

分節化を通じて得られた個々の知見情報は、特定の製品や機構に限らず他の製品やプロセスにも適用可能な「共通の構造」として整理されます。
これにより次の様な水平展開が実現します:

  • ある分野での成功例や不具合対策が他の分野にも活用できる
  • 特定の課題だったものが、汎用的な知識として蓄積・共有できる

分節化された知見情報は、設計やサービスのプロセス改善の場面でモジュール的に活用できます。
例えば、類似の設計変更やプロセス調整が求められる際、分節化された情報を参照する事で、迅速かつ効果的な意思決定が可能となります。


複雑な事象を理解する際、単に原因を挙げるだけでなく、それがどの様に他の事象を引き起こし、最終的な現象結果に至るのかを明確にする事が重要です。このプロセスは以下の様に進められます:

  1. Aという「事象」が発生した
  2. Aが引き金となり、Bという事象が発生した
  3. Bの影響で、Cという事象が発生した
  4. Cが影響を及ぼし、Dという不具合事象が発生した。

この様に「原因→事象」の1対1の関係 を適切に分節化し、それぞれを独立した構造として捉える事で、全体の因果連鎖を整理する事ができます。
この方法論は、FTA(Fault Tree Analysis:故障の木解析)を活用する形で、各因果関係を分解・構造化する際に有効です。

では、「原因→事象」の連鎖を個々のFTA(故障の木解析/Fault Tree Analysis)の連鎖として考える構成について、その一例を説明します。

  1. 原因1:(自動車ブレーキ回り部品の)ボルトの締め付けが不足していた
      ⇒ 事象1:ブレーキ回り部品が振動してしまった
  1. 原因2:ブレーキ回り部品が振動した
    ⇒ 事象2:ブレーキ回り部品が振動によって発熱してしまった
  1. 原因3:ブレーキ回り部品が振動によって発熱した
      ⇒ 事象3:その発熱がブレーキゴムに伝わってゴム柔らかくなってしまった
  1. 原因4:ブレーキゴムが熱で柔らかくなった
      ⇒ 事象4:ブレーキゴムが柔らかくなってブレーキの効きが低下してしまった
  1. 原因5:ブレーキの効きが低下した
      ⇒ 事象5:ブレーキゴムの効きが低下して衝突事故を起こしてしまった
  1. 局所的な問題を明確化
     1つの「原因→事象」の一対(ペア)を各々独立したユニットとして考える事で、複雑な全体 構造の中でも特定の箇所にフォーカスできます
  1. 全体像の把握と見落とし防止
     各ペアを繋ぎ合わせる事で全体の因果構造を把握できます。この手法は部分最適に留まらず、  全体最適を実現する基盤となります。
  1. 水平展開の基盤
     同様の因果構造が他の製品やプロセスにも存在する場合、再利用や応用が容易です。

この手法は、複雑な課題解決において非常に有効であり、設計改善や未然防止に寄与する強力なアプローチです。 
分節化された情報を蓄積する事で、組織全体が過去の成功事例や課題を効率よく参照し、それぞれをFTAの「原因→事象」ペアとして構造化する事で、以下の効果が期待できます。

  • 課題の深掘り分析と根本原因特定
  • 水平展開によるナレッジ共有の促進
  • 再発防止策やFMEAへの応用
  • 情報の明確化:複雑な情報が整理され、理解し易くなる
  • 共有・展開の容易化:他部門やプロジェクトへの知見の共有が迅速になる
  • コスト/リスク削減:効率的な問題解決により、時間やリソースを削減。未然防止策が効果的に適用される事で、リスクを最小化

2.概念化(一般化)のプロセスと その有効性と重要性

特定の事象や現象を概念化、つまり一般的な用語や表現に修正する事です。一例を示します:

  • 原始的記録(従来の記録内容)
    テフロン製の両面テープが80℃以上の環境下で剥がれてしまった
    → この表現だと、特定条件や特定材料に限定されてしまい、応用範囲や気付きが狭い。
  • 概念化(一般化)した場合の知見情報
    接着剤は常温では接着力が保てても、高温環境では 剥がれるリスクがある
    → 他の接着剤やテープ製品の設計、更には非接着方式への切り替え検討にも適用可能。

 【解説】この概念化の手順は、以下ステップによって分解し概念化して行った事が分かります:

  1. 問題の本質的な特性を特定する
    不具合が「熱」と「接着剤の特性」に関連している。
  2. 不要な限定条件を取り除く
    「テフロン製」「両面」など、特定条件に依存しない要因を切り離す。
  3. 広義の概念に置き換える
    不具合を「接着剤は熱に弱い」という汎用的な知識として再定義する。

  • 広範囲への応用可能性
    例:特定の製品分野、技術、材質に限定せず、不具合ロジックの概念として定義できるので、より広範囲な気付きが得られ、広範囲なリスク分析に応用できる。
  • 効率的な設計改善
    汎用的知見に基づく設計変更は、複数製品ラインに同時適用が可能。
  • 迅速な問題対応
    類似事象が発生した際に、過去の一般化された知見を直接適用し解決スピードを向上。

  1. 再発防止率の向上
    過去に同様の課題を一般化した知識を参照する事で、不具合再発リスクを削減。
  2. コスト削減
    設計変更の際、複数製品に同時展開できるため、開発コストを削減。
  3. 設計プロセスの短縮
    汎用的な知見を利用する事で、問題解決までの期間を短縮。
  4. 組織ナレッジの強化
    過去の経験を活用して新製品開発や他部門のプロジェクトを支援。

  • 概念化の手法は、限定的な事象を汎用的知識へと昇華させるため、組織全体の知識資産を強化します。
  • 水平展開により、設計効率化や未然防止策の実効性が向上し、競争力が高まります。
  • 具体例や可視化ツールを活用して、この手法の有用性を広く共有する事で、組織全体の成長を加速させる事が可能です。

3.属性、カテゴリー等の分類フラグ付けの重要性

最後に、個々の不具合事例や知見について、以下の分類切り口を付加する事で、更に活用効果が発揮できます:

 1.当初設計で目論んでいた機能/
     例: 締結(部品の締結)、溶着、接着、計測、フィルター、増幅、、、

 2.疎外要因、不具合のロジック/
     例: 摩擦、温度、過電流、短絡、腐食、ユーザーによる想定外の操作、、、

 3.事象に関係している部品や材料/
     例: 接着剤、ビス、ボルト、コンデンサー、コイル、抵抗、半導体IC、、、

これらカテゴリー別の頻度データを可視化する事で、的確な検索や傾向分析ができます。


【関連記事】

CAPA(是正処置と予防処置)について

IQとロジカルシンキングの関係について

Kiyoshi Tsujiをフォローする